【公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのはアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』(2017年4月7日公開)です。森見登美彦の同名ベストセラー小説のアニメ化で、アニメ界でも独自のヴィジュアルを持った湯浅政明監督作。そして声の主演は星野源! 

脚本は劇団「ヨーロッパ企画」の代表で、第61回岸田國士戯曲賞を受賞した上田誠。音楽はASIAN KUNG-FU GENERATIONという強力なメンツです。では物語からいってみましょう!

【物語】

京都の大学。黒髪の乙女(声:花澤香菜)に恋する先輩(声:星野源)は、何とか彼女とお近づきになろうと“ナカメ作戦”を実行します。それは、ナ=なるべく、カ=彼女の、メ=目に留まるという作戦。彼女の行くところへ先回りして「やあ」と声をかけるのです。

しかし、乙女は先輩の恋には気づかず、偶然だと思い込んでいます。彼女はいろいろな場所へ繰り出し、先輩は乙女を追いかけて、なんとか振り向いてもらおうと悪戦苦闘。そんな先輩と乙女を、二人の周りの個性的な面々がからんできて……。

【抜群のセンスと独特な世界観について行けるか】

アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』で、まずビックリするのはスタッフに人気クリエイターが大集合しているところ。湯浅監督はもちろんですが、キャラクター原案は人気イラストレーターの中村佑介氏、音楽はASIAN KUNG-FU GENERATION、声の主演は星野源ですよ! そして映画を見れば、中村氏のイラストがアニメ化されているわけで、ヴィジュアル的な満足度はかなり高いです。

最近は『君の名は。』ほか、背景を細かく描きこむアニメが多いのですが、本作はリアリティを追求せず、中村氏の世界観をいかに押し出すかという絵作りになっているように思えました。物語展開はスピーディで細かい説明ははぶいて、乙女を追いかける先輩の心の中のドタバタを鮮やかに切り取って見せていくのです(やがてそのドタバタが行動に現れるのですが)。

原作未読でしたが、正直、原作を読んでから見た方がいいかもしれません。わかりにくい複雑な話ではないのですが、一種独特なノリがあり、湯浅監督の世界観がわかっている人ならば、未読でも大丈夫かもしれませんが、湯浅監督の映画も初めて、原作も読んだことはないとなると、若干置いて行かれる感があります。ジブリアニメのようなものを想定していくと、全然違いますから、そこ要注意です。

【大学時代に戻りたくなるかもしれない映画】

『夜は短し歩けよ乙女』は大学生の織りなすファンタジーです。先輩が後輩に恋をしたり、飲み会があったり、学園祭があったり、おかしな仲間がからんできたり、将来への不安は置いといて、今を楽しもうぜ的な世界が展開されます。

この物語の中心にある片思いは恋の悩みのひとつですが、あまり切実感がないのは、先輩はけっこうリアルな人物像だけど、黒髪の乙女が天使みたいな女の子だからかもしれません。いじわる目線で見ると「こんな女の子いたらいいよね」という男の願望がつまった女子大生。男性小説家の描く女性像にそういう理想はありがちですからね。

この映画は、好きな人はめっちゃ好きでしょう! ヴィジュアルにハマり、ふわふわとした恋の世界と個性的なキャラクターたちをギャップを楽しめると思います。ウェス・アンダーソン監督(『グランド・プタペスト・ホテル』)を思い出しました。描いている世界も監督のセンスも違うけれど、見る人を選ぶ、好きな人は大好きという作風です。

ちなみに声優陣ですが、先輩を演じた星野源さんは、言われなかったら星野さんと思わなかったかも。それくらい私はしっくりきていました。花澤香菜さんは美声です、とてもキュートな声がさく裂していました。そしてロバート秋山氏の声によるパンツ総番長は凄い! さすがトップクラスの芸人、「クリエイターズ・ファイル」で鍛えた演技力で何にでもなれる実力者。アニメでも証明されました!

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『夜は短し歩けよ乙女』
(2017年4月7日より、TOHOシネマズ日本橋ほか、全国ロードショー)
監督:湯浅政明
原作:森見登美彦
キャラクター原案:中村佑介
声の出演:星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次ほか
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

▼映画『夜は短し歩けよ乙女』 予告編