Borrowed Time
ピクサーのアニメーター、Andrew Coats さんと Lou Hamou-Lhadj さん2人は、これまで『トイ・ストーリー』シリーズや『インサイド・ヘッド』など、数々の名作を手掛けてきた方。

そんな2人が制作、動画サイトVimeoに投稿したのは、ショートムービー『Borrowed Time(借りた時間)』。

セリフはほとんどなし。しかし、セリフを最小限にしているからこそ、ストーリーの背景にある重みが伝わってきます。深く、あまりにも大人向けな展開に、心を動かされれてしまいました。

【トラウマを抱えた保安官が主人公】

主人公は、過去に起きた悲しすぎる出来事、消えないトラウマと向き合うことができずに、自ら死を選択しようとする保安官。

崖に立つ保安官の頭によみがえるのは、遠い昔の記憶。まだ少年だったころ、おなじく保安官だった父と馬車で走行中、アクシデントが発生します。馬の手綱をしっかり持っていることができなかった自分のせいで、馬車は激しく転倒。

その衝撃で、一緒に乗っていた彼の父親は崖のほうへ投げだされてしまいます。なんとか助けようと彼は手を伸ばしますが、父には届きません。

そのとき、背負っていた銃を彼に差し出して、引っ張るように求めた父。それに応えようと懸命に銃を引っ張るのですが、不幸にも指が引き金にかかってしまい、誤って発砲された銃弾によって父親は命を落としてしまうのです。

【時が過ぎようとも心に負った傷はそのまま】

その後、父の後を継ぐように保安官になった少年でしたが、心の傷は一向に消えません。耐えきれなくなったのか、命を絶つため、忌まわしい思い出のある崖へとやってきた保安官。

身を投げようとした瞬間、偶然なのか必然なのか、ふいに起こった出来事。それによって彼が最後に下した選択に、心が揺さぶられます。

【作品を制作した理由】

Vimeo には、なぜ『Borrowed Time』を制作したのかについて、制作者の2人が自ら語っているメイキング動画が公開されています。

それによれば「アニメは子供のものという概念を壊したい」といった強い思いが、この作品の制作へと向かわせたそう。また、カウボーイ映画の要素を取り入れて作られたこの作品には、当初ほかにも登場人物がいたのですが、最終的には余分なものをすべてそぎ落とすことになったそうです。

私が推測するに、シンプルにしていった結果、物語がより重厚になったのではないかと思います。

【セリフがなくても十分伝わる】

人は誰しも、“消したい記憶”や、“忘れたい思い出”を1つや2つは持っていて、そういったことほど何度も何度も思い出してしまうもの。きっと保安官もそういった経験を繰り返したのでしょうし、だからこそ、すべてを捨てて楽になりたかったのでしょうが、運命とは実に不思議なものだと思います。

約6分という時間があっという間に過ぎ去る作品。画だけで全てを語っています。

参照元:Vimeo [1] [2]
執筆=田端あんじ (c)Pouch

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