【最新シネマ本音レビュー】
映画ライター斎藤香が公開映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのはアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』です。岩井俊二監督による同タイトルのテレビドラマをアニメ化した作品で、演出は『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之+『少女革命ウテナ』『輪るピングドラム』の武内宣之両監督(新房氏は総監督)で、アニメ好きなら「おおっ!」と思う2名。

そして映画『モテキ』などの大根仁氏が、今回は脚色として参加し、声の主演は菅田将暉と広瀬すずという豪華な布陣です。しかし、ネットでは賛否両論。

というわけで、ポーチ記者の私、両方見てみました。ドラマ版はだいぶ前に見ていたのですが、忘れている箇所も多いので再見。そして、ドラマ版との違いとそれぞれの魅力についてレビューいたします。
※未見の方、若干のネタバレあるので要注意です

【物語】

ある夏の日。中学1年の典道(声:菅田将暉)らは「花火は横から見ると平べったいのか」と疑問に思い、あーでもないこーでもないと言い合った結果「灯台なら花火を真横から見られるはず」と、夜の花火大会を灯台で見ることにします。

一方、典道と同じクラスのなずな(声・広瀬すず)は、母親の再婚が決まり、転校することに。反発した彼女は、典道の親友の裕介(声:宮野真守)をプールで花火に誘い、そのまま「かけおち」しようとします。しかし、裕介に約束を破られ、母親に連れ戻されてしまうのです。

それを見ているだけで助けられなかった典道は、なずなが落とした不思議な玉を投げます。するとプールの時間に戻り、典道はなずなに花火に誘われるのです。

【ドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」とは?】

本作は、1993年フジテレビのドラマ枠『if もしも』のスペシャル版として放映されたドラマで、監督・脚本は岩井俊二。ドラマ作品だったにもかかわらず、日本映画監督協会新人賞を受賞した作品です。説明セリフが少なく、役者の演技やニュアンスで伝えていく演出と、映像にもこだわりを見せた伝説のドラマで、岩井俊二が映画界に進出するきっかけとなりました。

【アニメとドラマの違い】

アニメ版とドラマの違いでまず気づくのは年齢。ドラマ版は小学6年生の物語ですが、本作では中学1年生という設定です。そして、時間が戻るきっかけを作る不思議な玉は、ドラマ版にはないアイテムです。

またドラマで時間が戻るのは1回ですが、アニメではこの不思議な玉が、二人を数回タイムリープさせます。ドラマでは乗らなかった電車に二人が乗ったり、母親と再婚相手が、なずなを追いかけてきたり、なずなが「ママが歌っていた曲」と松田聖子の「瑠璃色の地球」を歌ったり。アニメの終盤では、幻想的な世界が広がって、もはや後半にドラマ版の世界観は皆無です。

【45分のドラマを90分の劇場映画にする難しさ】

本作の総監督・新房昭之氏は、『魔法少女まどか☆マギカ』などで、アニメファンにはおなじみの人気監督。アニメーション制作はシャフト。私は新房監督の映画もシャフト制作のアニメも、今回初めて鑑賞しました。

アニメ好きの間では、シャフトへの信頼は大きく、アニメファンは満足していたようですが、それ以外の人たちの評価は厳しい……。私は後半の展開がちょっと受け入れがたかったのですが、それは45分のドラマを90分の劇場作品にするにあたり「アニメでしかできないことをしよう!」と大胆な展開に踏み切ったのではないかと予想します。そうしないと、アニメ化した意味がありませんからね。

【ターゲットを間違えたのかも?】

おそらくこの映画は、コアなアニメファンに向けて公開された方が喜ばれたのかもしれません。上映規模は縮小されますが、その方が評価は高かったでしょう。逆にそういう映画だからこそ、アニメファン以外の人が、普通に映画を楽しむ気持ちで臨んで「?」となったのです。アニメファンのツボは押しても、原作ドラマや一般の映画ファンのツボとは外れており、あまりカタルシスを感じられなかったというか……。

【これはやはり小学生の物語】

アニメを見た後、ドラマを見直しましたが、個人的には、設定を中学生に変えたことで、この物語の世界が崩れたように見えました。小6と中1は、たった1年だけど、この1年は大きいです。なずなの「かけおち」という言葉や背伸びした会話も、小学生だから可愛く聞こえるし、家出しようとしたことも、身勝手な親に対する小さな抵抗だったんだなあと納得できるのです。

中1になると、小学生のときに無邪気さは少し薄れますし、男女間の距離も離れます。それゆえに、物語のベースが同じまま、年齢を上げて無理が生じていたような気がしました。特に男子グループは、小学生が言ったりやったりすることを中学生でやっている違和感があり、これは私がドラマ版を見ているからかもしれないけど、それでもやはりこの物語は、小学生だからこそ成立するひと夏のファンタジーではないかと。

とはいえ、アニメファンのツボは確実に抑えているわけですから、そこは人気監督ならでは。アニメ好きな人は期待を裏切らない内容ではないかと思うので、ぜひ見てください。満足度は高いですよ。

 

※8月30日追記:掲載当初、公開日について、一時誤った情報がアップされていました。訂正して、心よりお詫びいたします

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
(2017年8月18日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
総監督:新房昭之/監督:武内宣之
アニメーション制作:シャフト
原作:岩井俊二
脚本:大根仁
声の出演:広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、浅沼晋太郎、豊永利行、梶裕貴、三木眞一郎、花澤香菜、櫻井孝宏、根谷美智子、飛田展男、宮本充、立木文彦、松たか子ほか
(C)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会




▼映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』予告編