【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。

今回ピックアップするのは、菅田将暉と桐谷健太の主演作『火花』(2017年11月23日公開)です。芥川賞を受賞した又吉直樹の同名原作の映画化作品で、オリジナルドラマも好評でした。その映画版を、板尾創路監督が手掛けています。

芸人が芸人を綴った原作小説を、芸人の映画監督が演出するというコテコテ感。これが実にビシビシと胸に刺さる映画に仕上がっているのです。

【物語】

若手コンビ「スパークス」の徳永(菅田将暉)は、まったく売れないお笑い芸人。徳永はある日、熱海の営業先で「あほんだら」というコンビの神谷(桐谷健太)と出会います。

神谷の破天荒なキャラから繰り出される笑いに刺激を受けた徳永は、神谷の弟子になりたいと頭を下げると、彼は「弟子にしてやるから、そのかわり、俺の伝記を書いてくれ」と言うのです。

【売れない芸人の生々しい叫びが胸に痛い】

苦節〇年でやっとテレビに出られたなど、お笑い芸人の苦労話を耳にすることがありますが、映画『火花』を見ていると、何年やっても「売れない」という状況が、どれだけ芸人の心を痛めつけるかというのがわかります。

自分のお笑いは世界一おもしろいと思っているけど、お客さんは笑わない。笑わせようと必死になるほどすべっていく悲哀……。よく泣かせる映画を作るのは簡単だけど、笑わせる映画は難しいと言いますが、そうなんです。笑いを生み出すのは難しいんですよ。

どうにもこうにも浮上できない中、「え、アイツが?」という芸人が人気者になっていく悔しさもあり、徳永は毎日苦しみます。でも、そんな辛い日々をポジティブな気持ちに変えてくれるのが神谷なのです。

見たこともないオリジナルな笑いを追求し、ドンと受けたかと思えば、「お前たちの笑いは漫才じゃない」とベテランにガツンと怒られる。しかし、怒られても自分を変えない神谷の腰の据わり方、諦めない粘り強さ、人懐っこい親しみやすさに徳永は惹かれ、神谷に頼るようになるのですね。でも、次第に神谷の人としてのダメさが見えてくるんです。

【徳永と神谷は違うから惹かれあう】

中盤から徐々に、神谷のダメさがジワジワ来るんですよ。同居している女性(木村文乃)に金銭的に頼りっぱなしなのに何とも思っていないし、何より、徳永は多くの人に笑ってもらいたいという野心があるけれど、神谷にはそれが感じられないんですね。「わかるヤツがわかればいい」と思っているのではないかと。誰が相手でも媚びない強さは素晴らしいけど、直感でお笑いをやっているような気がするのです。

それを決定づけるシーンが、後半に出て来ます。「こんなんやったらおもろいんじゃないの~」と神谷がとった行動に、さすがの徳永も呆れ、ブチキレます。可愛く言えば神谷は天然系の男ですが、このシーンはイタすぎて……。

でも、足元を見ながらため息をついてばかりの徳永だからこそ、足元を見ずにフワフワと生きる神谷がうらやましく、まぶしかったのかもしれません。

【出演俳優は全員最高です!】

菅田将暉はやっぱり良かったです。挫折だらけのお笑い人生をおくる徳永として、懸命に生きていました。「スパークス」の後半のライブはこの映画のハイライト。

菅田演じる徳永と、相方の山下(川谷修士/2丁拳銃)の漫才シーンを長回しで撮影しているのですが、これがもう涙腺崩壊! 徳永の暴走トークを受ける山下を演じる2丁拳銃の川谷さんも凄く良くて、お互いの相方への愛がつまったこのシーンは、思い出すだけで泣けてきます。

そして、神谷を演じる桐谷健太さんはかっこよかったり、最低だったり、ふり幅が大きい役を軽やかに演じていました。

芸人の日常と人生を切り取った本作。こんな風にネタ合わせして、オーデョションを受けて、落ち込んで、はい上がっていくのかとある意味新鮮な感動もありました。この映画を見ると、いい意味でお笑いを見る目がちょっと変わるかもしれません。



執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『火花』
(2017年11月23日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
監督:板尾創路
原作:又吉直樹
出演:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、川谷修士、三浦誠己、加藤諒、高橋努、日野陽仁、山崎樹範
(C)2017「火花」製作委員会

▼映画『火花』予告編