【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、大泉洋主演の最新作『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年12月28日公開)です。原作は「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(渡辺一史・著)で実話の映画化です。

障害と介護がテーマということで、重いかな、涙・涙の映画かなと思ったら、明るくて、笑いがいっぱいで、ほっこり温かくて、とても考えさせられる映画だったのです! では物語から。

【物語】

幼い頃から筋ジストロフィーを患っている鹿野(大泉洋)は、首と手だけしか動かせないため、24時間誰かのサポートがないと生きていけません。しかし、入院や家族との同居ではなく、自立の道を選びました。
とはいえ、ひとりでは生きられないので、彼の周りには常にボランティアのメンバーがいます。医学生の田中(三浦春馬)もそのひとり。その彼を訪ねて鹿野の家にやってきた恋人の美咲(高畑充希)は、新人ボランティアと勘違いされて、鹿野のワガママに振り回される羽目に。ウンザリした美咲は「鹿野さんって、そんなに偉いわけ?」とブチ切れますが、逆に鹿野に惚れられてしまい……。

【強烈なキャラクターの鹿野さん】

結論から言うと、とっても良い映画でした! 障害者や難病をテーマにした映画といえば、苦しみを乗り越えて……といった印象がありますが、そういった設定を次々とぶち壊すのが鹿野さん。わがままで、ずうずうしくて、おしゃべりで、ほれっぽくて……と、とにかく自由すぎる性格なのです。

真夜中に「バナナ食べたい。食べないと眠れない!」など、ボランティアスタッフに次々と指示を出して、自分のやりたいことを実現。一見わがままに感じそうですが、テキパキと指示する様子を見ていると、もしかして鹿野さんは介護ボランティア使いの名人なのかな、と思うようになってきました。

【大泉洋さんしか演じられない鹿野靖明という男】

加えて鹿野さんは超ポジティブで行動的! ボランティアを巻き込んでジンギスカンをやったり、美瑛町に旅行へ行ったり、英検2級に挑戦したり、美咲に告白したり(!!)と、やりたいことがいっぱいで、それをボランティアのメンバーとともに実行していくのです。

障害者と介護ボランティアというより、まるで鹿野さんを囲むサークルのよう。「あれもできない、これもできない」ではなく「ボランティアの人に助けてもらいながら、やりたいことをやる」というのが鹿野主義。

鹿野さんが常に前向きだから、ボランティアの人たちも明るくいられるんですね~。また鹿野さんを演じる大泉洋さんが素晴らしい! おしゃべり好きで、ときどきワガママ過ぎて困るけど、面白くて憎めない鹿野さんのユニークなキャラクターにピッタリ。前田監督とプロデューサーが「主役は大泉洋しかいない」と依頼したそうですが、大正解でしょう!

【観客と映画の世界を結ぶ「美咲」というキャラ】

田中と美咲は映画のために作られたキャラクターで、特に美咲はかなり重要な人物。なぜなら、美咲の目線がそのまま観客の目線になっているからです。いきなりボランティアの手伝いをさせられた美咲と同様に、観客も独特すぎる鹿野さんのキャラクターをまだよく知らないから「この人、何者?」と思うところからスタートするわけです。

観客は美咲を通して、鹿野さんの人となりを知っていきます。そして美咲は、自分に正直に生きる鹿野さんを見て、自分が諦めていた夢をもう一度追いかけようと思ったり、ひとつの嘘でギクシャクした田中への思いにも向き合おうとします。そんな彼女の心の揺れや成長も本作はしっかり描いているところがとてもいいです。

観客と映画を繋ぎながら、キャラクターとして成長していく美咲は魅力的で、演じる高畑充希さんも良かった~! 鹿野さんは美咲に片思いしていますが、女を見る目はあると思いましたよ。

【前を向くこと、楽しむことの大切さ!】

やはり明るい人の元に人は集まるし、楽しい気持ちにさせられるし、気づきも多いんだなというのが、本作の鹿野さんを通して改めてわかりました。

年末年始、映画鑑賞を予定している人、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』、超オススメです!

執筆=斎藤 香 (c)Pouch

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
(2018年12月28日より、全国ロードショー)
監督:前田哲
原作:渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(文春文庫刊)
出演:大泉 洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人 渡辺真起子 宇野祥平 韓英恵、竜 雷太 綾戸智恵、佐藤浩市、原田美枝子ほか
(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

▼予告編はこちら