【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは映画『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2018年11月17日公開)です。

こちらは公開前からネットで話題になっていた作品です。インディーズ映画ながら、2017年全米でも各映画賞を席巻した本作、シーツをかぶったゴーストの画像を見たときは、コメディで珍作枠だと思っていたんですが、実は「死後の世界」を描いた切ない作品なんですよ~。では物語から。

【物語】

田舎町の一軒家で暮らす若い夫婦、C(ケイシー・アフレック)とM(ルーニー・マーラ)。昔から引っ越しが多かったMはそろそろ引っ越したいと思っているけど、Cはこの家がお気に入り。そんなある日、Cが交通事故で他界。病院で遺体と対面したMは、シーツを彼にかぶせて立ち去ります。ところが彼女が去ったあと、シーツをかぶったままCの遺体が起き上がり、Mと暮らす家に帰宅するのですが……。

【死者は時間を持たない】

幽霊になったCは、Mの側で、ずっと彼女に寄り添います。確か映画『ゴースト/ニューヨークの幻』も同じように亡くなった恋人を見守るストーリーでしたが、あちらはハリウッドのメジャー作品らしくアクション、ミステリーの要素もふんだんにありました。でも、本作にはそのようなサービス精神はありません。ただCは言葉もなく、ずっとMを見つめるだけ。そして、観客はやがて気づくんですよ、死者は時間を持たないということを。生きている人間と死者とは時間の概念が違うんですね。

Cは幽霊なので彼の身に何かが起こることはありません。でもMは生きているので、Cとの思い出がつまった家でずっと悲しみにくれているわけにはいかないのです。死んだ人間にとって時間は残酷です。MはCの死で立ち止まっていた時間を取り戻すために歩み始めるのですから。二人の思い出がつまった家を出ていくM。彼女には彼女の人生があるから、それは仕方ないことだけど、「もうCのことはいいの?」「思い出の家なのに~」と思っちゃいましたよ。置いていかれたCが可哀そうで、なんだか辛い。

【幽霊としての幸福とは?】

幽霊に幸福なんてあるのかどうかわからないけど、この映画を見ていると、幽霊になったCに幸福になってほしいと思ってしまうんですよね。彼女と暮らした家には、その後、様々な住人がやって来て、彼らの生活を眺めて暮らすC。でも愛するMを見守っていた時とは違うじゃないですか。知らない人たちだし。Cは「オレはずっとこんな生活なのか?」と思い、悲しくなったと思うんですよ。見ているこっちも思いましたよ、彼は成仏できるのかと。

やはり幽霊は成仏するのがいちばん幸福なのではないか……と本作を見て思いました。好きな人とずっと一緒にいたい幽霊もいるかもしれないけど、生きている限り、新しい恋人ができる可能性はあるし……。けど、自分を亡くしてずっと悲しい顔をしている恋人を見るのも辛い。どっちも辛い!

【MからCへ。残された手紙】

Cにとって唯一の救いは、Mが家の壁の隙間に差し込んだメモ書きの手紙。二人の思い出の家は壊されることになり、Cに残されたMとの絆はその手紙だけ。彼はそれを見たくて壁をひっかいて手紙を出そうとするんですよ。なんで幽霊なのに壁をホジホジできるのかは謎なんですが、もう必死!

Cが成仏できるのかどうかは見てのお楽しみですが、これが死後の世界なのかなと思ったりしました。

言葉もない、相手にも見えない、何もないけどただ存在している。幽霊として生きるとか、幽霊の幸福とか、そんなもんあるのか?という感じですが、そう信じさせる何かがこの映画には詰まっていました。大事件が起こるわけじゃないし、淡々と時が流れていくので、賛否が分かれている作品でもありますが、自分の大切な人を失ったときに、この映画をふと思い出すかもしれません。

執筆=斎藤 香(C) Pouch

A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー
(2018年11月17日より、渋谷シネクイントほか全国ロードショー)
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ