「お前、友達いないからって授業出てないだろ。学校こいよ」

と電話を大学からくれた世話焼き同期。大学生の夏、私は人生ではじめて人間関係で悩み、家にこもっていた。なぜか当時、仲のいい友達が全くできなかったのだぁあああ!

———毎月1のつく日(1日、11日、21日だけ)は「ステキなぼっちの日」。

今回は現実社会で親しい友人ができず、ぼっちになり、ネットで知り合った名前も顔も素性も知らない男性に会うために、東京から6時間以上かけて高知に行った私の実体験をご紹介します。

【きっかけは大学に馴染めなかったから】

映像芸術系の大学に入学。面白い授業と個性豊かな学生や先生。そして凡人の私。

「あなたってオーラないよね」「ピンク映画も見たことないのにココにいるの?」「ポパイはキャラじゃなくて雑誌だよw」「この良さがわからない?あなたアイデンティティ、ないの?」と無知な自分にとって恥ずかしい日々の連続でした。なんだよオーラって! なんだよサブカル音楽限定カラオケって!

みんなとわかり合いたいがために、ドキドキしながらピンク映画をみたり、意味不明な記録映画を見まくって散財したり、サブカル雑誌を図書館で読みあさったものの、全然わからん。

……それでもぼっちは嫌だと必死に頑張った結果、

自分は何が好きだっけ? あれどうやって笑うっけ?と、どんどん人生の迷子に。このままではダメだ、なんとかしないと……!

【そうだ!大学以外の友達を作ろう】

真面目に考えた結果、大学以外で友達を作ろう、できれば芸術でご飯を食べているプロがいい!と、ザックリすぎる目標を立てました。

プロに会えば、惨めな自分を救い出せる気がする。怒られるかもしれないけど、学ぶことは多いかもしれない……。

【mixiでみつけた職業・彫刻家の人】

とはいえ、知り合いの紹介とかではつまらない。運命的な出会いを信じ、当時流行していたSNS「mixi」で相手を探すことにしました。すると、自分の趣味のコミュニティの中に、気になる人が出てきたのです。

職業は 彫刻家(見習い)

ハンドルネームは「猫のために魚を探す(仮名)」ヘンテコな名前に吸い寄せられるようにプロフィールをみると、顔も住む場所も年齢も性別も不明。だけど、なんか気になる……! 勘を信じて友達申請をすることに。

【優しそうな人…だけど1年様子見】

堅物だったり気難しかったらどうしよう……と、最初はビクビクしていましたが、やりとりするメッセージ文章から人柄の良さが滲み出ているではありませんか。優しい、きっとマリアのような人に違いない!  後々、高知在住の6個上の男性だとわかりました。

よし、さっそく会いに行こう! と思ったものの、ネットで顔も知らない人に会うのはちょっと怖い。

チキンな私は、1年ほどかけてメッセージのやりとりをし「アトリエを見せてください!」と大学3年生の夏に高知へ向かったのでした。

【男性の車に乗った瞬間…遅すぎる危機感】

「高知へ行って職人さんに会う」というワクワク感だけで、冬の大学生活を支え続け、とうとう初対面の日を迎えました

待ち合わせ場所へ向かうと「こんにちは、百村さんだよね?」という声が。振り返ると……黒ひげ危機一髪を超イケメンにしたような青年がいるではないですか!

爽やかな笑顔が眩しい彼が「車で移動するから助手席に乗って」と土佐弁で言われ、ルンルンで助手席に着席。しかしシートベルトを着けた瞬間、

『知らない土地で知らない男性の車に乗るのって…超危ないんじゃ』

と、今更すぎる危機感に陥ったものの、車は無情にも私を乗せて走り出します。

【目的地にまっすぐ行かない…だと!】

旅の目的は彫刻家のアトリエに行くことだったのですが「ちょっと観光しよう!」と言われ、遠回りすることに。ひえー、どこへ連れて行かれるの!? と思ったら……

大正ロマン的なレストランで食事、坂本龍馬の銅像を眺めて、アイスクリンという不思議なアイスを食べて、海を眺めてと高知を大満喫させてくれたのです!

来てよかったー!楽しいー!の嵐。久しぶりに心から人と話している自分に気がつきました。しかし目的地のアトリエで事件が起きたのです……。

【ある言葉がきっかけで…アトリエで号泣】

アトリエの他に、作業場なども見せてもらい、黒ひげ彫刻家の師匠(男性の父親)ともご挨拶しました。

彫刻のことを色々教えてもらっているうちに、「銅像彫刻は絵画よりわかりにくい気がする。見ている人は何を思えばいいの?」と、いま考えたら失礼すぎる質問をしてしまったのです。

するとキリッとしていた師匠の目が優しくなり、

「彫刻は一瞬の時を切り取ったもの。前後に何があったのか想像するのも楽しいし、自分に置き換えてもいい。自由に見て感じればいいんだよ

と教えてくれました。

その瞬間、涙がポタポタと流れ、気が付けば嗚咽するほど号泣。150人以上もいる同じ学部で、誰とも仲良くなれないし、自分が好きなことも見失って、大学が嫌いになってしまったけど、「自由に見て感じればいいんだよ」と言われて一気に安心したのかもしれません。「自由」という言葉で救われるなんて思わなかった。やっぱりプロはすごい、すごいよ。

【置かれた場所だけが世界じゃない】

最後に記念写真も撮影し、日帰りで東京に帰宅。

あっという間にいつもの大学生活に戻ってきたけど、大学が小さな箱に見えて、とても狭い世界で悩んでいたなと価値観が大きく変わりました。もしあの当時ネットがなかったらどうしていたのだろう……と思います。

その後、ネットを通していろんな人に会うようになりましたが、その見極めはたしかに難しいところがあります。今でもご飯を食べに行くような人もいれば、ダマされてモザイク処理のバイトをさせられたことも……(いい経験になったけど)。

だけど、高知の彫刻家さんとは今でもメッセージのやりとりする間柄。今年の夏、久しぶりに高知に遊びに行き、アイスクリンを食べる予定です。

執筆・撮影=百村モモ (c)Pouch